ウイリアム・ブラッカーと同じ時代を生きたエフェメラ(Ephemera本名はEdward Fitzgibbon)
彼も19世紀当時のサーモンフィッシングの様子を伝えてくれる貴重な著作を残している。
それが
“Book of the Salmon”である。
出版は1850年、サーモンフライを急速に進歩させるきっかけとなったブラッカーの
“Art of Fly Making”と並び当時各河川や地方で使われていた美しいフライを我々に伝えてくれる。
ただ、エフェメラはブラッカーと違い、ドレッシングの腕に関しては謎に包まれている部分が多い。
彼の著作に出てくる豪華なサーモンフライは他のドレッサーが巻いたものをイラストで描いたものであることから、少なくとも達人ではなかったのではないか?考えられる。
実際、エフェメラが特に推奨し“Book of the Salmon”のハイライトとも言える美しいフライを巻いたのはブラッカーである。
エフェメラとブラッカーは友人関係で、彼の著作でブラッカーは大きな役割を果たしている。
◆Book of the Salmonの特徴
エフェメラはイギリス各地の河川については相当の情報通であり、その地方で使われているフライや条件によって使用されるフライのセレクトに通じていた。
特にこの著作で注目すべきはフライをジェネラルフライとローカルフライに分類して解説しているところだろう。
①フライの分類
・ジェネラルフライ
これは使用する河川によって釣果に極端な差が出にくいフライ。
つまりどの河川でも実績を残せる万能フライと言う事が出来る。
しかし、特定の河川においてはその川のキラーフライにはかなわない。
・ローカルフライ
ある特定の地方、河川で抜群の効果を発揮するフライ。
でも、どの川にも通用するわけではなく、それ以外の川では効果が薄いフライ。
②サーモンフィッシングの定説
このBook of the Salmonには今は当たり前のようになっている釣りの定説が明確に記されている。
それは
濁った深い流れ(増水、雪代など)には大きくて派手なフライを用いる。
水が澄んで減水していれば小さくて地味なフライを用いる。
である。
豪華なフライが使われるようになり、当時は次第にフライの使い分けがはっきりしてきていた。
③記述とイラストレーション
エフェメラのBook of the Salmonにも画家による美しいイラストが用いられ、当時のフライを再現するのに大いに手助けとなってくれる。
ブラッカーのArt of Fly Makingがフライのマテリアルやリストに欠落している部分や省略があるのに対して、エフェメラのこの本の記述は正確であると思われる。
エフェメラが記したフライを再現するのは本の記述とイラストレーション、当時のフライはテールが長く細長いシルエットしていたと言う知識があれば難しくは無い。
◆エフェメラとブラッカー、記述の正確さの違いは
当時を代表する2人の著作で記述の正確さの違いが現れたのはどうしてだろうか?
超絶的な技巧を持ち、美しいフライを生み出すブラッカーのフライが正確な記述を欠き、著作に登場するフライのほとんどを人に任せていたエフェメラのフライが正確に記述されているのは何とも皮肉に思えてくる。
これは表現者で作り手のブラッカーと自分の選んだフライを紹介するエフェメラとの姿勢の違いではないかと思う。
想像であるが、フライを自己表現の手段とするものは最終的な表現方法はフライを作り上げる事。
つまり、百聞は一見にしかずではないが、フライを見れば疑問は全て解決してしまうのである。
ブラッカーは著作も表現手段の一つの過程と捉えていたのではないか?
一方のエフェメラはそれほど腕が達者なドレッサーではないことから、全てを文字とイラストで正確に伝える必要がある。
そこが彼の表現方法の終着点であり、これを逃したら伝える術は無い。
つまり情報を伝える者としての役割に徹している。
サーモンフライに関する著者でも関わり方の違いや立場の違いが明確に見えるようにも思えてくる。
Book of the Salmonに登場するフライは繊細で美しい妖精のようだ。
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2015-03-10 09:46
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